石堂動物病院

院長のひとりごと

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2009年 03月

2009.3.30(月)

「ちゃちゃ」ちゃん、おかえりなさい!

今回は当院の患者さんの10歳のマルチーズ、「ちゃちゃ」ちゃんの感動的なお話です。

「ちゃちゃ」ちゃんは、今年の2月に「僧房弁閉鎖不全」という心臓の弁の病気(「病院便り」にこの病気の解説があります)であることがわかりました。病気の程度は軽く、毎日お薬を飲む事によって咳も少なくなり快調に生活していたのですが…

3月10日の夜に突然、咳の発作が起り、南京都夜間診療所で夜間救急診療を受けました。そして翌日早朝に当院へ転送されてきました。鼻には酸素吸入用の細い管が挿入されていて、酸素ボンベにつながれていました。当院に到着してからも鼻からの酸素吸入を続けなければいけない状態が続きました。僧房弁閉鎖不全の病気が急に悪化して呼吸困難の状態になったようです。夜間病院の先生方の適切な処置で肺水腫の危機的状態は脱しましたが、危険な状態が続いていました。

当院に入院後にさらなる検査を実施したいと思ったのですが、無理に検査をしようとすると、また呼吸困難や咳の発作が再発します、
さて、どうするか…
しっかりと病態を把握しなくては次の治療の方針がたちません。
「ちゃちゃ」ちゃんの様子をみながらレントゲン検査を実施。
また、肺に水が貯まっている(肺水腫の状態が続いてる)。
「ちゃちゃ」ちゃんを興奮させないように、伏せの状態で心臓の超音波検査を行ないました。
その結果、僧房弁の半分くらいが左心房に落ち込んでいます。僧房弁を支えている腱索の半分が切れている可能性が疑われました。さらに検査を続けると状態が悪化しそうです。
この状態では酸素供給から離脱することもできないし、内科的な投薬治療でも近い将来に限界がきて「死」に至る危険性が非常に高いと思われました。

さて、どうするか…?
「ちゃちゃ」ちゃんを助ける方法は、切れた腱索を再建する心臓手術しかないかもしれません。でも、このような高度な心臓外科手術のできる施設は、日本中を探してもほんのわずかしかありません。さてさて、どうする…

ご家族に、「ちゃちゃ」ちゃんの心臓が非常に危険な状態であり、この状況を根本的に救うには心臓の外科手術が必要であること、その手術ができる施設が限られていること、そして、その手術自体が非常に難しい手術であることを伝えました。

ご家族は、「勇気ある決断」を下されました。
この病気を治すために心臓手術を受けるという決断です。

京都から一番近い手術可能な施設は名古屋にあります。
名古屋のお友達の獣医さんにも協力してもらい、手術の依頼を行ない、快く受け入れてもらえました。
次は、移動用の酸素ボンベの手配です。酸素吸入をとめる事ができません。酸素ボンベに関しても助けてくださる先生があらわれ手配完了!
3月13日、名古屋の病院に出発!
その後、術前状態を安定する治療を続け、3月18日、心臓手術の実施です。手術翌日の朝、執刀してくださった先生から電話連絡がありました。
「手術は上手くいったのですが、術中の合併症が…、わずかな空気が血液と一緒に脳に流れ込んで「脳空気栓塞」が起きてしまい、自発呼吸がもどらなくて…、現在、人工呼吸器の管理下です。意識が戻ったとしても脳障害が残るかもしれません…」
午後、再度、連絡がありました。
「自発呼吸が再開し、意識も戻りました。ICUへ移動しました」

しかし、まだまだ、「ちゃちゃ」ちゃんの戦いは続きます。
ICUに入院した後に急性膵炎を発症してしまいました。右後肢にも内股から血管に挿入したカテーテルの影響なのか、足先を引きずるような軽い麻痺が発生しました。
名古屋の病院の院長先生をはじめ、スタッフの皆様の献身的な治療が続きました。その結果、急性膵炎も治り、意識レベルもしっかりしてきて脳障害の後遺症の心配もなくなりました。
そして、3月28日、退院して京都のお家に無事、帰還です。

そして、本日3月30日、「ちゃちゃ」ちゃんが元気な姿を見せに来てくれました(写真)。
心臓の雑音はわずかに残っており、今後も心臓の薬の投薬は必要です。右後肢の麻痺が少しありますが、酸素吸入の必要なしに診察室を自由に動き回っています。咳もなく呼吸も楽そうです。意識レベルもしっかりしています。これなら、これからも大丈夫と思える様子でした。

学会などで心臓外科手術の報告等を聞いていましたが、実際にその手術の成功例を眼の前に見る機会があるとは…、
日本の獣医学もとんでもなく進化しているなあ〜と実感してしまいます。
ほんとにすごい!!

「ちゃちゃ」ちゃんの命を救って下さったのは…
まず、心臓手術を決断された、勇気あるご家族、
適切な初期治療を行なってくださった南京都夜間診療所のスタッフの皆さん、
当院入院後、「ちゃちゃ」ちゃんのお世話をしてくれた当院の看護婦さん達、
転院にあたってアドバイスをしてくださったお友達の獣医さんいろいろ、
そして、非常に難しい心臓外科手術を実施し、その術後ケアを行なっていただいた、名古屋の茶屋ヶ坂動物病院の金本院長、および病院スタッフの皆さん、
多くのすばらしい方々の努力で、ひとつの命が救われ、見えないバトンがつながってきました。
最後のバトンを受け取った私としては、皆様の努力に負けないように、これからの術後管理と長期コントロールに全力を尽くさねばとプレッシャーを感じています。さあ〜、これからが私の番です、頑張らねば!

最後にひとこと、
「ちゃちゃ」ちゃん、お帰りなさい!
そして、これから、いっしょに頑張ろう!

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